敵探知機に光が灯っている。連合のモビルアーマーだ。まっすぐにこちらに向かっている。操縦桿を倒して反転すると、さっきまでいたところを光線が突き抜けていく。バーニアをふかして速度をあげつつこちらもビーム銃の照準を合わせる。ガンバレルが宙で爆ぜた。間髪いれずに本体も飛散する。
 気づくとエネミーの数は増えていた。囲まれている。アラートが鳴り響く。トマホークで一刀両断にする。爆発を確認した直後、司令塔を失ったガンバレルがこちらの機体に直撃した。計器が雑音を発し、舌打ちをする。急いで確認をする。装備に異常はなし。まだ戦える。
 途端、友軍を示す光が緊急信号を発しだした。チェーザレだ。機首をめぐらせてチェーザレの方向へ向く。奴のザクをとらえた瞬間、彼の機体は爆ぜた。周囲のモビルアーマーを巻き添えにして。
「・・・は?」
 頭は混乱していた。爆発のむこうから現れたのはのジンだった。
「・・・どういうことだよ」
 はこちらへ一直線に向かってくる。通信ボタンを押すが、反応しない。通信機器がいかれたらしい。重斬刀の軌道の先には俺の機体がある。コクピットの中の彼女の姿はもちろん見えない。アラートが鳴り響く。俺は口を開き、





「ハイネ、ハイネ」





 目を覚ますと、不思議そうな顔をした女の顔が全面に映った。いつのまにか眠ってしまっていたらしい。額にはじんわりと汗が浮かんでいる。
「うなされてたわよ」
 揶揄の口調で言いながら離れていく。俺は上半身を起こし、片手で汗をふいた。
 理由は考えずともわかっている。昼間、友人たちの墓に花を添えてきた。感傷に浸る目的ではなかったのだが、結果的にそういうことになってしまったのだろう。
「本命にばれる夢でも見た?」
 何もしらない女の口調はあくまで人を小馬鹿にした音色をはらんでいる。
 睨もうと思って顔をあげれば、なめらかな裸の背中が目に入った。昔から、やけに背中のきれいな女だった。世界中の画家がこぞってモデルにしたがるような背骨だ。ベッドの縁にこしかけて、きれいに背骨を曲げてペディキュアを塗っている。
「アカデミーからだったかしら?だとしたらもう随分長いんじゃない?」
「あんなのもう知らねえよ」
 女は声をあげて笑った。こちらの神経をわざわざ逆なでするような声なので俺は思わず、黙れよ、と低く唸ってしまう。だがそれが隠しようもない証拠になってしまったことに気づいて舌打ちをした。
「私には、あなたが本気で恋ができるんだっていうのが意外だった」
 ふいに女の声が優しくなり、ふり返った顔もゆったりと微笑んでいたものだから、俺は動揺を隠せず目を見開いてしまう。
「俺はいつだって本気だけど」
「そう?・・・ああ、誰にでも本気になれるから、誰に対しても本気じゃないように見えたのかしら。あなた昔から来るもの拒まずだったじゃない?」
「そうか?」
「そうよ」
 彼女は勝ち誇ったように言う。
「だから、正直、あなたが苦戦しているのを見るとすごく気持ちがいいわ。せいせいする、って言うのかしら」
「うるさいな」
「ふふふ」
「そういうおまえはどうなんだよ」
「私?私は来週結婚するのよ」
 にこりと笑いながら言う。清々しい笑顔だったので、俺が答えに窮したことは言うまでもない。
「相性のいいゲノムが見つかったんだもの」
 ああ、そういうことか。
 すとんと腑におちた。
「婚姻統制ってやつは便利だな。こんな尻軽でもゲノムさえあえばちゃんと結婚できるのか」
 急にもたげた嗜虐心を見ても、彼女の方はあっけらかんとしている。過去にあったすべての性デカダンスを忘れてしまったかのようだ。何事にも本気にならないのはおまえの方じゃないのか。そんな言葉を出すのも躊躇われた。
「・・・女ってやつは」
「強いでしょう?」





 しらけた気持ちを抱えて身支度をすませてしまうと、女は少し思案顔をしていた。なに?ぶっきらぼうにきくと、女は顔をあげた。
「ハイネもその本命ちゃんのゲノム調べてみたら?」
「はあ?」
「合ってしまえばこっちのものじゃない」
 にこりともせず、至極大真面目な声色で言うのだ。俺は鼻で笑った。
「どれだけの確率だと思ってるんだよ」
 そうして部屋を出た。