夜、食堂へ行くと、が一番奥のテーブルで食事をしていた。その向い側にはミゲルが座っていた。他にも何人かいたがその二人からはみんな離れて座っている。ここ一週間ですっかり馴染みとなった光景だった。
 俺がを見た後、彼女の目がこちらを向いた。遅れてミゲルがこちらを向いて、屈託のない挨拶をする。手を振ってこたえ、カウンターへ向かった。トレイをとり、他の仲間のたむろしているテーブルに混じって食事を始める。たちとは背中あわせだったので様子は見えない。が、話の内容は聞きたくもないのに筒抜けだった。
「でさ、ディアッカとイザークは同じ部屋なんだけど、イザークの奴がすぐ癇癪を起すせいで部屋中傷だらけなんだよ。イザークもいい加減諦めればいいのにな。まだアスランに勝とうってやっきになってんだよ。アカデミー時代から全然変わっちゃいないんだよ」「アカデミー時代から知っているの?」「いや。学年が違うから、知ったのはあいつらがクルーゼ隊に所属になってからだな。おもしろいぜ、クルーゼ隊。変わったやつばっかで。あれ、そういえばって何期生だっけ?」「・・・忘れた」「なんだよそれ。おかしいの。あ、あいつ知ってる?アカデミーの体術の教官の・・・」「知らない」「え、じゃあ俺の一期上とかなのかな。あ、ってかハイネと同期だっけ?」「・・・」「あれ、おまえ手首どうしたの」「え?」「痣ができてる」「ハイネ!」「え?」
 気づくと、テーブルで向かい合っている全員の視線がこっちに集まっていた。
「なに、おまえ、なんでそんなぼーっとしてんの。疲れてる?」
「かもな」
「ちゃんと休めよ」
「ああ、サンキュ」
「俺ら今日当番だから先行くぜ」
「オペレーターは大変だな」
「パイロットほどじゃねーよ」
 片手をあげて同じテーブルにいた奴らは全員食堂を出ていく。そうして残るは俺と例のふたりと、メカニックが3人だけというだけになった。とミゲルの会話はまだ続いている。会話といっても一方的にミゲルが話をし、それにが相槌をうつという一方的なものだ。きいていると二人のうけこたえはちぐはぐで、なのに滞りなく進んでいるのだから奇妙なものだと思う。
 空になったトレイをとり、片付ける。手をふいたところでミゲルを呼ぶ声が聞こえた。食堂にいたメカニックとはちがう奴らが来て、入口のところでミゲルを呼んだのだ。タブレットを片手になにやら話をはじめた。俺はのいるテーブルへ向かった。彼女のトレイはまだ半分くらい食べ物が残っている。けれどもう食べる気はないようで、手つかずのまま放置されていた。
 後ろに立つとはこちらを見た。
「なに?」
「べつに」
「そう」
「あとで話せるか?」
「今でもいいけど」
「いや、後がいい」
「わかった」
 俺は食堂を後にした。すれ違いざまにミゲルの目がこちらを見たような気がしたけれど、角を曲がってすぐに見えなくなった。