ハイネ・ヴェステンフルスはいつも人の中心で笑っている奴だった。ふと笑い声がきこえた方向に目をやると必ずそこにはハイネがいて、胡散臭いやつだな、というのが正直な感想だった。こういう奴はきっと悩みとは無縁なんだろう。わたしみたいな人間とも無縁のはずだ。そう結論づけたのだが、彼にとって相手がどんな奴かはあまり重要ではないらしいということは後にわかった。来るものはもちろん拒まず、寄ってこないものでも容赦なくひきずりだす。ありきたりな表現しかできないが、要するに彼はムードメーカーで、リーダーシップを兼ね備えた人格者だった。教官からの期待度が学年トップのわたしよりも高いのも間違いなくそういう理由からなのだろう。別にかまわないのだけれど、わざわざ厄介事に首をつっこみたがる彼の習性はいつか彼の身を滅ぼすだろうとわたしは確信している。





 バイクに乗ろうとする時もやはりスカートが邪魔をした。ひらひらして、風をすいこんで膨らむのだ。
「まいったなぁ・・・」わたしはうなった。「やっぱりこんな服ろくでもないよ」
 手でスカートの裾をつまむ。
「脱いじゃいたい」
「や、それはやめてくれ。自制心がきかなくなる」最後の方は何を言っているかきこえなかった。
「市街地にズボンは売ってる?」
「そのままでも大丈夫だって」
 ハイネはスカートを足に巻きつけて、しっかりおさえておくという方法を教えてくれた。慣れてるのね、と言うと、早く乗れよ、とヘルメットをよこす。言われた通りにスカートをおさえて後部座席に横座りをした。
「しっかり掴まってろよ」
 言われた通りに手をまわすと、
「うわ!」
 ハイネがすっとんきょうな声をあげて身をよじったのでわたしはびっくりして手を離していた。「えっ、なに」
「や、そこにバーがあるだろ」
「あ、ほんとだ」
 確かにあった。目立たないのでわからなかった。改めてしっかりと握る。
「あー、いや、でも別に・・・くそっ」
 言いかけたセリフを不自然に切って何やら視線をそらし、舌打ちをすると、乱暴な音をたててバイクは滑りだした。
「ハイネ、休暇中だからってトレーニング怠けてない?少し贅肉が・・・」
「うるせえ!」