母艦の一片が開き、そこに飛び込むように着陸した。とたんに浮遊感がなくなり、代わりに現実感が戻って来た。カタパルトが作動し、小刻みの振動がコクピットを揺らす。しばらくして停止し、画面はいつもの見慣れた光景を写した。ハンガーを大勢のメカニックが怒声をあげながら飛び交っている。甚大な被害があったのだ。ジェネシスの射撃により戦況はザフト軍の圧倒的有利な方向に進んでいるとはいえ、無傷というわけにもいられない。
 メカニックの合図をみて俺はベルトを外した。キャノピーを持ちあげて立ち上がり、外に出る。
「被害状況は?」
「甚大」
「知ってる」
「機体の後始末は俺たちに任せてブリーフィングルームに行ってくれ。艦長たちが待ってる」
「わかった」
「それと、ほら」
ボトルを目の前に突き出される。
「サンキュ」
 俺はありがたく口をつけた。メカニックはこちらの肩を叩いてねぎらいの意を表すと、すぐ機体に向かって飛んでいった。彼の落ち着きのない背中を見つめながら、何か違和感を覚えていた。
「ハイネ!」
 声のした方向に視線をやれば、ゲオルグがこちらに向かって壁をけったところだった。俺がぎょっとしたのは距離の近さにではない。奴の顔が青ざめていたからだ。
「ハイネ、なんであいつが一緒じゃないんだよ?」
「は?」
「お前、聞いてないのか?!だよ!30分前に通信が途絶えた!」
 俺の両肩を揺さぶるゲオルグの手は震えている。「・・・なんだって?」
「おい・・・隊長は?!どこだ?!」
「隊長は負傷された・・・今救護室だ・・・」
「それは知ってる!そっちはさっき通信が入って・・・ってそうじゃない!くそ!なんでは救命信号を出さねえんだ!!」
 そこから予想できる最悪のパターンは頭を振ってふりはらう。
 叫んで、ゲオルグの肩を押す。その反動でコクピットへ戻ると、大きな手がスクリーンを遮った。メカニック長だった。
「どけ!」
「隊長が負傷された。この意味、お前ならわかるよな」
「単刀直入に言え!」
「この隊の指揮権がお前に移ったということだ」
「知るか!」
 手を払いのけると、コクピットをしめた。手は踊るようにスイッチに触れる。モニターが明るくなり、ザクの目に光が灯る。外ではメカニックたちがなにやら叫んでいる。


「機体を出せ!出さねえと、この艦全部ぶっ壊すぞ!」