はあまり周囲に興味を抱かない人間だった。 常に成績トップ、アカデミーの歴史をかたっぱしから塗り替えておきながら、自分では何も感じていないらしく、いつも成績表を無表情で素通りしていた。鼻にかけないというレベルの話ではない。他人の噂話どころか、自分自身に払う関心も持ち合わせていないかのようだった。休み時間はたいてい機械をいじくりまわすか、常備薬のように持ち歩いている本と音楽で周囲との間に壁を作っていた。そうでなければここではないどこかをぼうっと眺めている。そんな少女だった。 俺がそんな彼女と関わることになったのは、なんてことはない、たまたまある授業でペアを組むことになったからだった。彼女は気の抜けた声色であいさつをした。ご丁寧に自己紹介までつけたので俺は笑ってしまった。 「俺たちの代で・の名前を知らない奴はいないと思うぜ」 「そうなの?」 「そうなのってお前・・・それ他の奴らの前で言うなよ」 「なんで?」 「命が危うい」 「新月の夜は気をつけるわ」 「変なやつだってよく言われねえ?」 「よくわかったわね」 やっかいな同期だとは思わなかった、といったら嘘になる。だが友人たちに揃いもそろって心配されたほど絶望的な気持ちにならなかったのは今思えば不思議なことだった。時が流れるに比例してつるむ時間が増えていったのもまったくもって驚くべきことだった。周囲の「でこぼこコンビ」という揶揄はもちろんすぐに耳に入った。まったくだと感心してしまったので異論は何もなかった。昼食の席でこのことに触れると、彼女は首を傾げた。 「わたしとハイネがコンビ?なんで?」 心底不思議といった様子なのだ。俺はスプーンをもったまま力なく笑った。 そんな彼女のファミリー・アフェアについて知ってしまったのはごく偶然の事件で、俺はそのことについて軽く後悔を覚えてしまったくらいだった。その日俺は好奇心が顔を出さないように細心の注意を払いつつ彼女にそのことを伝えたのだが、危惧していた通り彼女は不快感を露わにした。 「なんて言ったの?」 「いや、ただ、ってエミール・とクレモンス・の娘だったんだな、って思って」 「それがなに?」 「夫妻っていったら、遺伝工学の歴史を100年早めたって言われてる名誉研究者だろ?だからさ、そんな研究員の娘が両親と同じ道に進まずに軍人になろうとしたってのは、なんか特別な理由があったのかなって思っただけさ」 「・・・特別な理由がないと軍人になったらいけないの?」 空気は明らかに悪い方向へ進み始めていた。そして大事なことは、取り繕うには最早手遅れだということだった。彼女はため息をこぼした。 「人の弱みを握ろうというのは結構なことだけど。でも、それなら下調べはもっと念入りにやるものよ」 「・・・なんでそんなことになるんだよ?」 「そうとしか考えられないから」 「お前、性格悪いってよく言われねえ?」 彼女は鼻で笑った。 「研究所のことは知っている?」 「ああ、もちろん。メンデル傘下の研究所だろ?」 正確に言えば知っていたのではなく、彼女の両親について調べる過程で知るに至ったのだが、あえて訂正する必要性がなかったので伏せておいた。 「メンデルの傘下になったのは現所長が就任してからね。じゃあ、この現所長のことは知っている?」 俺は首を振った。 「ギルバート・デュランダル。きいたことくらいはあるでしょ?」 昨日端末で検索した情報をかたっぱしから手繰り寄せて、ようやくひとつのポートレートにたどり着く。 「ああ、見たことはあるな。ニュースに出てた」 「そいつが理由」 「・・・は?」 「父さんと母さんが死んで、あいつに全部乗っ取られたの。乗っ取られて、奪われたの」 彼女は立ちあがった。談話室で、うすいコーヒーを方手にだらだらとしていたのだ。そのことすら忘れていた。 気配はすぐにフェードアウトしていった。俺たちの間に生じる作為的な距離を暗示するかのようだった。事実そうなった。 俺たちがホーキンス隊に配属されるまで続いた。 |