扉をあける前から音でわかっていたことだが、外に出るとざんざん降りの雨が俺たちを迎えた。いそぐ程の用事もないが(そもそも用事ならたった今終わった)、二人して当たり前のように雨の中に身を進めた。もちろん傘などもっていない。次の瞬間の保身にすら無関心な俺たちなんかがいつ降るとも知れない雨などのために大きな傘を持ち歩く様は、ちょっと愉快だと思った。

「ひどい雨」

 角を曲がったところでが憎憎しげに呟いた。「神さまが怒っているみたい」
 濡れた髪が頬に張り付いている。その隙間からのぞく瞳は俺のものよりも随分下の位置にあったが、決してこちらを向いてはいなかった。もとより座っているとき以外でがチーム一背の高い俺の目を見ることは全くといっていいほどなかった。図体のでかいだけの子供、とはよく俺たちのことを形容した。子供のために首を痛めてやりたくない、と胸を張って言うのだから、つくづく傲慢な女だ。おまえの方がガキだ、と言えば当然のように胸を張って無視された。 はジェンダーなどという言葉とは無縁の女だったが、それでもどこか女であることに引け目を感じていた。哀れな女だ。さらに救いのないことに、よりによって俺なんかに悟られてしまう。

「おまえ、神を信じてるのか?」
「信じてると思う?」
「だったらそんな軽々しく神なんて言葉使うんじゃねぇよ。ミスタにどやされるぜ」

 がすこしの間黙ったので、一瞬怒らせたかと思った。でもよく考えればいつだってこいつは手ひどいしっぺ返しを食らわせてやることを至上の喜びとする人間だった。

「宗教っていうのは事実だって証明されると同時に終焉をむかえるらしいわよ」

 目には目を、歯には歯を、という言葉をは金科玉条のように扱っていた。負けず嫌い。他人とフェアであろうとする。結局はどちらでも大差のないことだった。