目を覚ましてまず目に入ったのは見慣れた後ろ頭だった。椅子に座って窓の外を見ているらしい。外はあいにくの曇り空だ。起き上がろうとすると頭痛がして知らず声が出た。 「まだ動かないほうがいいですよ」 穏やかな声。いつもの古泉くんの声。 「その様子からすると、閉鎖領域はなんとか収拾がついたのね」 「はい、かろうじて」 「そう…」 「痛み止め、飲みますか?」 「あるの?」 「機関にしては珍しいことです」 「機関の薬なの…じゃあやめておく。何飲まされるかわかったものじゃないし」 「そんなこと言ったらいけませんよ。大事にされているということなのですから」 私が力に目覚めてから3年。これはつまり、力を世界のために使い続けて3年ということになる。長いと感じることもあるし、まだそれだけしか経っていないのかと辟易することもある。今まで3年も世界のために尽くしてきた。けれどこれはいつまで続くかわかないうちのたった3年なのだ。もしかしたら私の一生から12年引いた残りの3年なのかもしれない。でも私の一生は残りどれくらいあるのだろう。 「何を考えているんですか?」 パタンと乾いた音がした。古泉くんが本を閉じたのだ。つまり、彼は本を読んでいた。気づかなかった。 「別に…」 「何も考えるなとは言いませんが、こういう時くらいはゆっくり休んだほうがいいですよ」 「だから何も考えてないって」 「それならなにも問題ないんですけどね」 反論しかけて、やめた。古泉くんの安定を崩すのは太陽を西から昇らせるくらい難しい。 「ゆっくり休んでください」 古泉くんはベッドに座って私の髪を撫でた。そしていつも通りの微笑みで唇を寄せてくる。こういう瞬間を幸せと呼ぶのかもしれない。空は暗くたちこめている。 |