目を開くと、見慣れた天井が目に入った。頭、体幹、四肢。体中、どの部位をとっても石のように重く、べったりと嫌な汗をかいている。それでもひきずるようにして手を胸元まで持っていく。穴はあいていない。















 昨晩、は、かちり、と硬貨同士のはじけるような音を聞いた。背中から堅い感触が離れ、わずかの沈黙が流れた。

―命拾いしたね。

 不発弾だよ。
 彼の低く抑えた声をきいた途端、緊張の糸が切れ、はその場に崩れ落ちたのだった。















 シャワーを浴びてくれば良かった、と思ったのは、大学の構内に入ってからだった。屋敷から十分離れなければ余裕が生まれなかったともいえる。廊下ですれ違ったニーナに声をかけられたかどうか、それすらも定かではない。
 食堂にたどり着いた時、約束の時間までにはまだいくらかあったが、すでにトーリスはフェリクスとともにを待っていた。彼は手をあげかけ、すぐにそれを下ろした。そしてとっさにフェリクスと顔を見合わせる。
 は席に着くと、ゆっくりと机の上で腕を組んだ。「で?」
「どっちから話す?」
「…俺から話すよ」
 頭を抱え、机にじっと視線を落としたトーリスは、まるで何かを探しているようだった。
 封じ込め、堅く閉ざした記憶の鍵を手に取ったのだ。